2026.08.20
ロボット支援手術や腹腔鏡手術では、内視鏡が術野を大きく拡大して映し出します。細部がはっきり見える一方で、拡大されたぶん視野は狭くなり、その外側は術者の目が届かない死角になりがちです。視野の外で器具がどう動いているか、臓器に触れていないか、不安を感じた経験をお持ちの方も多いのではないでしょうか。
こうした死角を補う手段として開発されたのが、腹壁に固定して腹腔内を広く見渡す超小型カメラBirdViewです。この記事では、内視鏡手術で死角が生まれる仕組みから、BirdViewが視野角120°でどのように腹腔内を俯瞰するのか、その構成や使い方までを整理してお伝えします。導入を検討する際に知っておきたい要点が、ひととおりつかめる内容となっておりますので、手術の安全性向上に関心をお持ちの方は、ぜひ参考になさってください。
内視鏡手術の映像は、術野を鮮明に拡大して見せてくれますが、この拡大こそが、視野の外に死角を生む原因にもなっています。まずは、なぜ拡大と死角が表裏一体なのか、その構造を整理していきます。
■拡大視効果と引き換えに狭まる視野
内視鏡は対象を大きく映すことで、細かな血管や組織の質感まで確認でき、拡大視効果は手術の精度を支える大きな利点です。
ただし、画面に大きく映すということは、映せる範囲がそのぶん狭くなるということでもあり、カメラが向いている一点は精細に見える一方、そこから外れた領域は画面に入りません。術者が集中している部位の周囲で何が起きているかは、内視鏡の映像だけでは把握しづらいのが実情ではないでしょうか。
つまり「よく見える」と「広く見える」は両立しにくく、拡大を優先するほど視野の外は見えなくなり、この見えない領域が、いわゆる死角となります。
■ロボット支援手術で高まる触覚欠如と視野外リスク
近年はロボット支援手術の保険適用が広がり、さまざまな疾患領域で症例数が増えていますが、術者に3次元映像を与えて空間の把握を助け、手術の質を底上げできる点が評価されています。
触覚機能を備えた技術の導入も一部で進んでいますが、
■視野外の臓器損傷が手術全体に及ぼす影響
死角で起きて困るのが、意図しない臓器の損傷です。術者が画面の対象に集中している間に、視野の外でロボットアームや器具の一部が別の臓器に接触してしまう、といった事態が起こり得ます。
視野の外での接触は、起きた瞬間に気づきにくいという難しさがあり、発見が遅れれば出血や周辺臓器へのダメージにつながって、手術全体の進行にも影響します。患者さんが重い状態に陥る可能性もあるため、術中合併症のなかでも見過ごせない課題とされてきました。
だからこそ、拡大された視野の「外側」で何が起きているかを把握する手段が求められてきたのではないでしょうか。
BirdViewは、机上のアイデアではなく、手術現場で実際に感じられていた課題から生まれた製品です。ここでは、どのような問題意識から開発が始まり、どんな段階を経て実際の手術で使われるまでに至ったのかを紹介します。
■手術現場の課題意識から始まった開発
BirdViewの出発点にあったのは、拡大視効果によって生じる死角を何とか俯瞰して監視できないか、という手術現場からの発想です。内視鏡の狭い視野を補い、腹腔内全体を見渡せるカメラがあれば、視野外のリスクを減らせるのではないか、という具体的な問題意識が起点になっています。
このアイデアを形にするため、大学の研究グループと、大手電子機器メーカー、そして医療機器の開発・製造を担うコスミックエムイーが連携し、超小型で広い視野角を持つ腹壁固定型カメラの共同開発が進められました。現場のニーズと、それぞれの技術やノウハウが噛み合うことで、これまでにない監視カメラという発想が実際の製品へと近づいていきます。
■動物実験から臨床試験、薬事認証までの歩み
医療機器は、思いついたらすぐ患者さんに使えるものではなく、有効性と安全性を段階的に確かめながら進める必要があります。BirdViewもまず動物実験で、内視鏡よりも広い視野で腹腔内を俯瞰できることを確認し、そのうえで腹腔鏡下手術における臨床試験へと歩みを進めてきました。
こうした検証を積み重ねた結果、BirdViewは2022年3月に管理医療機器(ビデオ硬性腹腔鏡)としての薬事認証を取得し、現在は実際の臨床の現場で使われています(医療機器認証番号:304AFBZX00037000)。研究段階のコンセプトではなく、正規の認証を経て市販されている点は、導入を検討するうえで確かな判断材料になるはずです。
■客観的な評価に裏づけられた安全性
BirdViewの有用性は、開発者の主観だけでなく客観的なデータでも示されています。ロボット支援手術を対象とした研究では、助手が視野外を確認しながら器具を安全に出し入れできるようになり、NASA-TLXという指標を用いた評価で、助手の作業ストレスを有意に軽減できたことが報告されています。
さらに2024年12月には、医工連携によって製品化され市販されている医療機器のなかから医療への貢献などの観点で優れたものを選ぶ、日本内視鏡外科学会の第1回松本賞にBirdViewが選ばれました。第三者から評価を受けている事実は、この製品が現場で果たしている役割を裏づけるものといえるのではないでしょうか。
BirdViewの核心は、内視鏡とは別の位置から腹腔内を広く見渡すという発想にあります。ここでは、カメラをどこに置き、どんな映像を、どういう構成で映し出しているのかを具体的に見ていきます。
■腹壁に固定して全体を見渡すという発想
BirdViewの最大の特徴は、内視鏡のように手で操作し続けるのではなく、超小型のカメラユニットを腹腔内から腹壁付近に固定して使う点にあります。腹壁の内側という一段高い位置から見下ろすことで、腹腔内を俯瞰でき、内視鏡が捉えきれない周辺までを視野に収められます。
視野角は水平120°と広く、術野の一点ではなく全体を面でとらえる設計です。内視鏡が「よく見る」役割なら、BirdViewは「広く見張る」役割を担い、両者を組み合わせることで、拡大と俯瞰という異なる見え方を同時に確保できます。
■内視鏡映像とBirdView映像を同時に見る
BirdViewが映した映像は、専用のコントロールボックスで処理され、手術室のディスプレイに表示されます。内視鏡のモニタとは別に俯瞰映像を映せるため、術者やスタッフは拡大された術野と腹腔内全体を並べて確認できます。
この「同時に見られる」点が実務では効いてきます。器具を腹腔内に出し入れする際も、視野の外を俯瞰映像で確かめながら安全に視野内まで動かせるため、見えないまま操作する不安を減らせます。先に触れた助手のストレス軽減も、こうした俯瞰映像の存在が支えているといえるのではないでしょうか。
■システムを構成する4つの要素
BirdViewは単体のカメラではなく、主に以下のような4つの機器が組み合わさったシステムとして動きます。
・カメラユニット
腹腔内を撮影する超小型カメラで、単回使用(ディスポーザブル)の部分にあたります
・コントロールボックス
カメラからの映像信号を処理し、ディスプレイへ出力する本体です
・接続ケーブル
カメラユニットとコントロールボックスをつなぐケーブルで、洗浄・滅菌して繰り返し使えます
・設置治具
カメラユニットを腹腔内の所定の位置に設置するための器具です
このほか、映像を映す外部ディスプレイや出力ケーブルは市販品を利用でき、内視鏡や鉗子といったふだんの手術で使う機器と組み合わせて運用します。特別な環境を一から用意するのではなく、既存の手術機器に加える形で導入できる構成です。
どれほど有用な機能でも、現場で扱いにくければ導入は進みません。BirdViewは、サイズや衛生面、既存機器との組み合わせやすさといった実務の観点でも配慮された設計になっています。
■重量約6g・径10.5mmの超小型カメラユニット
腹腔内に固定して使うカメラである以上、大きいものでは邪魔になり、かえって手術の妨げになってしまいます。BirdViewのカメラユニットは筐体サイズが約62mm×径10.5mmと、体内に置いても邪魔になりにくい超小型に抑えられています。
小型でありながら、画素数1280×720のCMOSセンサーと2灯のLEDを備え、腹腔内を明るく鮮明に映し出せる点も見逃せません。小ささと映像品質を両立させたことで、俯瞰用カメラとしての実用性が確保されています。
■既存のロボット支援手術環境に組み込みやすい構成
BirdView は、専用の大型設備を新たに整えることなく、既存のロボット支援手術システムへ導入しやすい設計となっています。
適切な場所に固定されたカメラユニットからの広角俯瞰映像は、サージョンコンソール(Surgeon Console)内の画面に表示できるだけでなく、外部モニターにも出力・表示可能です。これにより、術者だけでなく助手や看護師をはじめとする手術室全体のスタッフへリアルタイムに映像を共有できます。
導入の負担を最小限に抑えつつ、チーム全体でロボットアーム同士の干渉や視野外の周辺組織への接触を常に監視でき、手術の安全性を飛躍的に高めるのではないでしょうか。
内視鏡手術やロボット支援手術の拡大視効果は、精密な手技を支える一方で、視野の外に死角をつくります。BirdViewは、適切な場所に固定したカメラユニットで腹腔内を広く見渡すことで、この死角を補う製品です。
視野角120°の広角俯瞰映像は、サージョンコンソール(Surgeon Console)内への表示や外部モニターへの出力が可能で、術者だけでなく手術室全体のスタッフとリアルタイムに映像を共有できます。ロボットアーム同士の干渉や周辺組織への接触を常に監視でき、既存の手術環境にも大がかりな構成変更なしで組み込める構成になっています。
株式会社コスミックエムイーは、BirdViewの製造販売元として、製品に関するご質問や導入のご相談を承っています。「まずはシステム構成を詳しく知りたい」など、初期段階のお問い合わせからお気軽に弊社へご相談ください。
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