2023.05.25
高齢化社会の進行に伴い在宅医療の需要が急速に拡大する中、医療機器業界では在宅医療機器の開発がますます注目を集めています。
高齢者や慢性疾患患者など、自宅で医療を受ける必要がある人々が増加している中、在宅医療機器のニーズも多様化しています。
高齢化社会の進行を背景として高まっている在宅医療のニーズ。
ではなぜ、在宅医療を求める人々が増えているのでしょうか?その理由を探ると、在宅医療には病院での療養とは異なる多くのメリットがあることが分かります。
高齢者や慢性疾患患者にとって、自宅で医療を受けるまず一つ目のメリットは、『患者の生活の質を向上させる』ことです。
自宅で療養することは病院での入院治療に比べ、自由度やプライバシーの確保ができ、日常生活の中で治療やケアを受けられることは家族との絆を維持し心理的な安定感を得ることに大きくつながります。
また、在宅医療は治療に掛かる費用負担を軽減する面において大きなメリットがあります。
病院での入院、または通院の場合、入院に掛かる諸費用や移動費など非常に多くのコストや時間が掛かりますが、自宅での医療はこれらの負担を削減することができ、医療費の捻出による家計の圧迫や家族の負担が抑えられます。
しかしこのようなメリットが多くある一方、課題が存在するのも事実です。
最も重要な点として、在宅医療は病院やクリニックとは異なる環境で行われることに起因する負担やリスクを減らすため工夫や安全性を確保すること、が挙げられます。
ここで重要な役割を担っているのが、今回特集する『在宅医療機器の開発』です。
現場のニーズに沿った在宅医療機器の開発により、一層の患者の安全性を確保し、自宅において適切な医療を提供するための環境を整えることができます。
日本厚生労働省が公開している以下の情報によれば、高齢者以外にも、慢性疾患患者など自宅で医療を受ける必要がある人々が増えており、在宅医療の重要性がますます高まっていることが分かります。それに伴い在宅医療機器の需要が急速に増加しており、新規機器開発の需要が高まっていることが示されています。
参考:出展元(厚生労働省 在宅医療推進のための医療機器承認促進事業)
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11121000-Iyakushokuhinkyoku-Soumuka/zaitaku1.pdf
そして、実際の在宅医療の現場で挙がっている課題から捉えられる開発ニーズとしては以下のようなものが存在します。
・安全性と信頼性の向上
在宅での医療ケアにおいては、患者の安全と信頼性が最優先されます。したがって、在宅医療機器の開発では、安全性と信頼性の向上として、より一層安全な品質が求められています。
・使いやすさとアクセシビリティの向上
在宅医療機器は、患者自身や介護者によって使用されることが多いため、“使いやすさ”こそ、何よりも大切なポイントです。
院内であれば、各診療科それぞれの診療に最適な環境と専門的な器具が整っていますが、在宅医療の場において院内同様の環境・器具を用いて診療にあたることは難しく、それにより診療の範囲が限られてしまう、患者・介護者双方において診療中の姿勢に負担が生じる、などの問題があります。
このようなことから、具体的には
・身体的な制約のある中での診療を快適に行える工夫
・限られた環境においても院内と同等レベルの診療が行えるような改良
・持ち運びを考慮した小型化/軽量化されたデザイン
など、多方面でアクセシビリティ向上を叶える医療機器の新規開発が求められています。
目次2では近々にも開発が望まれる在宅医療に向けた機器開発のニーズについて解説しましたが、今後さらに在宅医療を発展させる可能性を持つ取り組み案をご紹介しましょう。
・持続的なモニタリングとデータ収集:
在宅で療養する患者の健康状態のリアルタイムなモニタリング・データ収集は、医療従事者が患者を診療する際に適切な治療を迅速に提供することに寄与し、予防的なケアの可能性も広げます。
・モバイルテクノロジーの活用:
モバイルテクノロジーを活用し、医療従事者同士がスムーズに患者の情報を共有できるシステムや、在宅医療を受けている患者の受診の必要性について担当医師と連絡が取れるような仕組みの導入など、色々な側面で在宅医療を支える環境の構築が期待されています。
・介護機器の新規開発ニーズ
高齢化社会において、在宅医療機器開発はますます重要性を増しています。
特にニーズが高いものとして「口腔ケア」に関連するもの、また、「寝たきりの利用者のケア・サポートを充実させる」ための医療機器の開発に期待が高まっているようです。
このように、一層の高齢化社会の進行を見越した在宅医療機器の新規開発市場は未知の可能性を秘めています。
今後、産業界による技術の提供、医療機関からの臨床現場のニーズの提供、政府による政策の整備などを的確に連携させていくことにより、高品質で使いやすい在宅医療機器の開発を実現し、患者の生活の質を高め、より一層安心して自宅での療養生活を送れる可能性が広がると考えています。